[書評] 朴槿恵倒れる #韓国名誉革命を率いた記者と市民たちの話
[書評] 朴槿恵倒れる #韓国名誉革命を率いた記者と市民たちの話
  • The Korean Politics
  • 承認 2016.12.20 12:00
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レガシー発ソーシャル経由、路上着の軌跡

「朴槿恵大統領退陣」を求め、10月29日から12月17日まで8週にわたり行われている「ろうそくデモ」。2万人から始まったものが、わずか6週後の12月3日には全国で232万人(いずれも主催者発表)を集め、9日の朴大統領弾劾訴追案可決を導く成果を上げた。徹底した平和デモとしても知られている。

ろうそくの灯は単なる抗議にとどまらない。次期大統領の有力候補がこぞって「革命」という言葉を用いるほど建設的だ。根底には韓国人が「ヘル朝鮮」と自虐する、人間らしく生きられない社会を根本から変えようとするモチベーションが横たわる。 来年の大統領選挙はもちろん、今後の国家像の行方にも大きな影響を及ぼすと評価されるゆえんだ

12月1日に発刊されたばかりの本書は、韓国メディアが建国以来と書き立てるこの大きなうねりが、どのように起こったのかを丁寧に解き明かしてくれる謎解き本として最適の一冊となっている。

著者は「MEDIA TODAY」というメディアを監視するインターネットメディアの記者。新聞、テレビといった韓国のレガシーメディアが、「崔順実(チェ・スンシル)」という「陰の実力者=秘線」にまつわるファクトをどう暴き出したのか、そしてそれがどう市民を動かしたのかを「情報=ファクトの伝達」という観点から整理する。

本書の表紙。題名: 朴槿恵倒れる #韓国名誉革命を率いた記者と市民たちの話原題: 박근혜 무너지다 #한국 명예혁명을 이끈 기자와 시민들의 이야기
本書の表紙。題名: 朴槿恵倒れる #韓国名誉革命を率いた記者と市民たちの話原題: 박근혜 무너지다 #한국 명예혁명을 이끈 기자와 시민들의 이야기

堪忍袋の緒が切れた保守メディア

前半部は、朝鮮日報をはじめとする政権に近いとされてきた保守的なレガシーメディアが、どのような過程で朴槿恵政権を見限ったのかを2年前からさかのぼって説明する。著者は「朴槿恵政権は(メディアに対し)青瓦台(大統領府)に対するいかなる私的な・非公式的な接触を許可しなかった」と、崔順実ゲート以前の朴政権の3年半を総括する。

青瓦台から与えられる情報を、ただ伝達すればいいという風にメディアを「しもべ」として扱う姿勢は、直前の李明博(イ・ミョンバク)政権では「同じ側」であった保守メディアの不満を募らせたというのだ。保守メディアは国民をはじめ側近との意志疎通を嫌う「不通」という朴大統領のイメージを広め、その転向をうながした。

それにも関わらず、態度を一向に改めない朴大統領に対する保守メディアの不満が爆発したのが、今年4月の総選挙だ。大方の予想をくつがえし野党が勝利した選挙結果を真摯に受け止めず、支持率が低下し続ける大統領を前に「保守メディアは生存戦略を変えた」と著者は指摘する。

「朝鮮日報がもっとも恐れるのは、有料部数の下落や売上の現象、税務調査ではなく、イシュー選占能力の喪失である」という一文に代表される保守メディアの意識が「朴槿恵大統領を見限る」選択を取らせたというのだ。このままでは次期大統領は進歩派になってしまい、影響力が無くなるという危機感だ。

朝鮮日報は、ここから本格的な朴政権批判に突入する。7月末には朝鮮日報が禹柄宇(ウ・ビョンウ)青瓦台民情主席秘書官一家の汚職を、系列のTV朝鮮が崔順実氏肝いりの「財団法人ミル・Kスポーツ財団」の詳細を報じ始めたのだった。本命の崔順実氏へのインタビューも7月に済ます周到さであった。

だが、青瓦台は主筆の収賄疑惑を暴露するなど朝鮮日報への反撃を開始、「税務調査」をちらつかせ全面的な攻勢に出たため、9月に入りすぐ、同紙は白旗を揚げる。ここで登場したのが、同じレガシーメディアでありながら朝鮮日報とは旗幟を逆にする進歩系(革新系)の「ハンギョレ」だった。

ハンギョレは朝鮮日報の報道を引き継ぐかたちで取材を進め、「崔順実」という名前を前面に出す。本書では特に、この途中で同紙の取材団を率いるベテランの金ウィギョム記者が、朝鮮日報の方相勳社長に向け書いたコラムに注目する。

朝鮮日報の先行報道のち密さを認める一方で、方社長が数年前に語ったという乾杯の辞までを引用し、圧力に屈せず汚職をあばいて欲しいと説得する「とても丁重なコラム」はある程度功を奏し、韓国のメディア史上、類を見ない左右の「奇妙な同盟」が誕生したと著者は見立てる。

市民の「情報リテラシーにメディアが呼応

著者は後半部で10月7日から10月26日までを、日付け別に細かく整理している。この20日間を著者は「紙面ならびに画面が、SNSと結びついた」時期と定義する。10月7日は、テレビ局SBSのプロデューサー金ヒョンミン氏が初めて「#それで崔順実は?」というハッシュタグを使い始めた日だ。

このハッシュタグはSNS上で瞬く間に広がり「記者に対し崔順実氏に関する取材を進めよという応援と圧力となった」と著者は語る。さらに、「今日、ニュースはシェアされない限り存在しないものと同じ」という強烈な一文をはさむ。

当時、崔順実氏をおもに扱った「ハンギョレ」や「京郷新聞」のアクセスは、それ以前より2.5倍も増えたことからも分かるように、メディア各社は結果として「存在感を維持するために」前出のハッシュタグに応えざるを得なかったのだった。「市民はSNS上のいいね!で連帯し、スローガンを叫んだ」との表現は大げさではない。この時からデモは始まっていたのだ。

ここからの20日間は、あくまでシラを切る朴槿恵大統領と青瓦台、そして与党に対し、市民の応援を得た韓国のメディアが攻勢に出る過程となる。ここで活躍したのは、保守紙「中央日報」系列のケーブルテレビ局「JTBC」だった。著者は新聞とテレビのコラボレーションにより、いかにファクトが一つずつ蓄積されていったのかを、正確な記録をもとに分かりやすく整理する。

他のメディアが崔順実ゲートを報じるなかでも北朝鮮の話題をトップに据え、消極的な態度を取り続けていた公営放送のKBS、MBCが「合流」したのは10月20日のこと。その一週間前には、芸能人の熱愛写真専門のメディアまでもが崔順実氏が隠れているドイツに特派員を派遣するなど、韓国のメディアは総力戦を行っていたという裏事情も豊富だ。

圧巻は10月24日から26日にかけての記述だ。各社の報道がピークに達し矛先が大統領へと向くなか、当の朴大統領は国会で施政演説を行い、任期内の改憲を明言する。改憲の中身は禁断の「重任制」であった。一方で、一連の崔順実ゲートに関しては口を閉ざす。これにより、情勢は一変するかと思われたが、JTBCが同日夜、崔順実氏が朴大統領の原稿を手直ししたタブレットPCを報道することで流れをせきとめる。

動かぬ証拠を突き付けられた朴大統領は、翌25日、異例の早さで釈明会見を開く。だが、この矛盾を同日夜、「ハンギョレ」がひっくり返す。さらにTV朝鮮は7月の崔順実氏へのインタビューを公開したたみかけると、朝鮮日報は26日に「恥ずかしい」というタイトルの社説を掲載し「朴槿恵大統領に死刑宣告を突き付けた」。著者の筆致は緊張感があふれ、推理小説のクライマックスを読む感覚に襲われる。

今年の冬を彩ったのは、派手なイルミネーションではなく、ろうそくの灯だ。12月3日撮影
今年の冬を彩ったのは、派手なイルミネーションではなく、ろうそくの灯だ。2016年12月3日撮影

メディア=言論とは何かという問い

本書の最終部は補論となり、現在進行形の変化が語られる。テーマはメディアの今後だ。著者はここで「メディアこそが『朴槿恵-崔順実体制』の最大の加担者だ」という、独立系メディア記者の言葉を引用する。さらに「権力が弱まった匂いを嗅いでからやっと、権力の死体に噛み付くメディアはハイエナに過ぎない」と痛烈に批判する。

では、メディアの役割とは何なのだろうか。著者は、JTBCの報道部門の社長であり韓国でもっとも信頼されるジャーナリストである孫石煕(ソン・ソッキ)氏が語る「ただ一つの方法」を提示する。本書で明示されていないが、前出の「ハンギョレ」の金記者が「陣営論よりもファクトが強い」と語る点が大きなヒントとなる。そう、ファクトを伝えることだ。

メディアが伝えるファクトが市民を呼び、市民がメディアを支えることでファクトが蓄積され、デモとなって大統領退陣という政局を作った。市民はメディアが垂れ流す「情報」の消費者ではなく、ファクトの要求者となって表れた。

筆者は本書の内容が日本のメディアならびに日本社会に示唆する点が最低三つはあると読んだ。一に、メディアはファクトを伝えるものであるという点、二に、市民はメディアにファクトを要求できるという点、三に、メディアと市民が力を合わせるところに社会を変える力が生まれるという点だ。

ただ、これらを可能にする条件を規定するのは難しい。本書で触れられているように、韓国の保守メディアは自らの生き残りのために朴大統領と崔順実氏の関係を暴き始めたからだ。ただ、その軌道を修正したのは紛れもなく「より人間らしい社会」を熱望する市民であった。このことは、メディアの消費者として自らを貶めがちな市民にとって、何かのヒントとならないだろうか。

なお、本書は韓国のメディア事情を知るためのデータ本としても価値が高い。文中には各テレビ局の視聴率や視聴者層が詳しく分析され、推移にも詳しい。韓国社会を重層的に理解するためには必見の書であることは間違いない。(徐台教)

書籍データ
題名: 朴槿恵倒れる #韓国名誉革命を率いた記者と市民たちの話
原題: 박근혜 무너지다 #한국 명예혁명을 이끈 기자와 시민들의 이야기
著者: チョン・チョルウン
ページ数:300ページ
価格:15,000ウォン
出版社:(株)メディチメディアmedicimedia
発行日:2016年12月1日