公約集では6つの項目を設定
南北関係については、共に民主党が4月28日に発刊した公約集の中の「平和統一」の項が該当する。6つの項目に分けてビジョンを述べている。それぞれ見ていく。
(1)北朝鮮の核問題を必ず解決し、戦争の危険が無い朝鮮半島を作ります。
(2)「朝鮮半島新経済地図」構想を実行し、韓国経済に新たな成長動力を提供します。
(3)南北朝鮮の市場を一つに統合し、漸進的な統一を推進します。
(4)南北基本協定を締結し、南北関係を正しく導きます。
(5)北朝鮮の人権を改善し、離散家族・国軍捕虜・拉北者問題を解決します。
(6)南北の社会・文化・体育交流を活性化し、国境地域を発展させます。
南北関係公約その1:北朝鮮の核問題を必ず解決し、戦争の危険が無い朝鮮半島を作ります。
-段階的・包括的なアプローチで、果敢で根源的な非核化を推進
・北朝鮮の核活動を中断させ、完全な核廃棄を推進。
・制裁と対話など、あらゆる手段を活用し北朝鮮の非核化をけん引。
-北朝鮮の非核化と合わせ、朝鮮半島の平和体制の構築
・南北の軍事管理体系を構築し、偶発的な衝突を防止し、軍事的な緊張を緩和。軍備統制の推進。
・北朝鮮核問題の完全解決段階で「朝鮮半島平和協定」を締結。
南北関係公約その2:「朝鮮半島新経済地図」構想を実行し、韓国経済に新たな成長動力を提供します。
-東海(日本海)圏エネルギー・資源ベルトを中長期的に構築
・金剛山、元山(ウォンサン)、端川(タンチョン)、清津(チョンジン)、羅先(ラソン)を南北が共同開発した後、韓国の東海岸とロシアを連結。
-西海(黄海)圏の産業・物流・交通ベルトを中長期的に建設
・首都圏、開城(ケソン)工団、平壌(ピョンヤン)、南浦(ナムポ)、新義州(シニジュ)をつなぐ西海岸経済協力ベルトの建設。
・京義線の改補修、ソウル~北京間の高速交通網の建設により中国主要都市との1日生活圏を構築。
-東海・DMZ環境・観光ベルトを中長期的に造成
・雪岳山、金剛山、元山、白頭山をつなぐ観光ベルトを構築。
・DMZを生態・平和安保観光地区に開発。
南北関係公約その3:南北朝鮮の市場を一つに統合し、漸進的な統一を推進します。
-北朝鮮の市場拡散を促進する方向に南北経済協力を推進
-市場を基礎とし南北経済統合を発展させる経済統一を優先的に推進
-市場統合を土台に生活共同体も形成し、統一の基盤を構築
-生活密着型の北韓離脱住民(脱北者)定着支援を通じた’小さな統一’の実現
・北韓離脱住民の支援体系を統合的かつ生活密着型に改善。
南北関係公約その4:南北基本協定を締結し、南北関係を立て直します。
-憲法4条に従い、自由民主的基本秩序に立脚した平和統一と、政府の公式統一方案である民族共同体統一方案を継承発展
※参考:憲法第4条「大韓民国は統一を指向し、自由民主的な基本秩序に立脚した平和的な統一政策を樹立し、これを推進する」
-7.4共同声明、南北基本合意書、6.15共同宣言、10.4首脳宣言を尊重し、変化した国際環境と南北関係に合わせ、新しい合意を導出
-南北間の政治、経済、社会文化、軍事を網羅する新たな枠を作成
-国会の批准同意として発効させ、国際的な支持を確保
-与・野・政・市民社会が参加する「統一国民協約」の締結推進および統一共感の拡散
・安定的な対北・統一政策遂行に対する国民的な合意を導出。
・地域住民を対象とする統一教育、統一展示館、北韓離脱住民の政策支援などの機能を遂行する「統一センター」を広域自治体別に設置推進。
・国内外に朝鮮半島の平和・統一に関連する統一次世代リーダーを養成。
南北関係公約その5:北朝鮮の人権を改善し、離散家族・国軍捕虜・拉北者問題を解決します。
-北朝鮮住民の自由権と社会権を統合的に改善
・国際社会との共調など多角的な努力を通じ、北朝鮮当局に対し政策および制度の変化を促す。
・人道的支援と開発協力を通じ、北朝鮮住民の社会権を保護・増進。
・南北間の対話時に人権問題の議題化を推進。
-離散家族申請者全員の再会を推進
・南北の人道主義問題解決のための「朝鮮半島プライカウプ」を推進。再会を申請した離散家族約6万人全員に対し、全員の再会を目標とし、北朝鮮に対する病院の設立などの人道的支援と交換。
・離散家族の生死確認、書信交換、常時再会、第二面会所の建立など離散家族問題の解決。
-国軍捕虜・拉北者は送還を含め、当事者の意思を尊重する多様な解決策を作成
・国軍捕虜・拉北者の高齢化を考慮し、遺骸の送還など事後政策の併行を推進。
南北関係公約その6:(6)南北の社会・文化・体育交流を活性化し、国境地域を発展させます。
-開城(ケソン)工業団地の再稼働、金剛山観光の再会を推進。
-交流協力活性化で、北朝鮮の変化と、南北関係発展の礎を作成。
・平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックを契機に南北体育交流の再開。
・文化芸術体育交流を拡大する、当局間政治・軍事対話を軌道に乗せた後で本格的に推進。
-南北接境地域の発展方案を模索
・南北接境地域共同管理委員会の設置でDMZおよび接境地域で発生する問題を共同で協議および解決。
・「統一経済特区法」制定および推進。
これまで見てきた「平和統一」の項以外にも、「責任国防」という章では下記のように北朝鮮に言及している部分がある。
他の公約:北の核に対応する核心戦力(KAMD、Kill-Chainなど)を早期戦力化します
-韓国の地形により適合した防衛体系(KAWD)の早期開発および配置
-Kill-Chainの実現可能性と完璧性のための独自な監視偵察おとび打撃資産増強、敵指揮部麻痺戦力、電磁気弾(EMP)増強などを推進。
-北核・ミサイルの脅威に効率的に対応するための「戦略司令部(仮称)」の設置検討。
KAMD(Korea Air and Missile Defense)、すなわち「韓国型防空・ミサイル防御体系」は高度50キロ前後(10~70キロ)の弾道ミサイルを迎撃する下層防御システム。韓国の国防部が2016年10月に発表した内容によると、2020年代序盤(2023年)の完成を目指している。
Kill-Chainとは、北朝鮮で弾道ミサイルが発射されるか、もしくは発射可能性が高いと判断される場合に30分以内に該当する基地を攻撃するシステムのことだ。同じく2023年までの完成を目指している。
分析:あらゆるカードをテーブルに乗せる可能性も
文在寅候補の南北関係における公約は、核問題の解決、国土開発、脱北者定着支援、南北基本協定、人権改善、南北(経済)交流の拡大、そして強い国防という、北朝鮮との関係に望まれるあらゆる要素を含めた「バラ色の公約」だ。
すべて実現する場合、われわれは5年後に、現在では想像もできない平穏な朝鮮半島を目の当たりにすることになるだろう。
そのためには一にも十にも核だ。核問題における前進なくして朝鮮半島の膠着状態は変わらない。公約には「北朝鮮の核活動を中断させ、完全な核廃棄を推進するために制裁と対話などあらゆる手段を活用」とあるが、それ以上の具体的なプランは書かれていない。
ヒントは、文在寅大統領が候補時代に行った発言にある。
4月27日に行われた放送記者クラブ主催の討論会で文候補は「北を説得するために相応の措置を取っていく。北が核の凍結を行う場合には、それに応じ米韓軍事訓練を縮小することもできる。核開発にこれまで多くのお金を使っただろうが、米朝関係が正常化するならば、それよりも大きな額の補償を受けることもできる」との計画を明かした。
さらに「要はどうやって包括的な解決を実現するかだが、それは多者間外交にかかっている」しつつ「核を凍結し、交渉テーブルに座る段階で開城工団と金剛山観光を再開できると考える」とも述べている。
こうした発言から予想できるのは、韓国側が公約にあるような「カード(インセンティブ)」を様々に組み合わせながら北朝鮮側に提示し、核開発の凍結に向け交渉していく総花的な戦略を採用することだ。
そのカードは韓国だけでなく、周辺国の利益にもつながる経済開発に関わるものになる可能性が高いだろう。「朝鮮半島新経済地図」への参加を代価に周辺国の譲歩をうながすかもしれない。
だが、核で譲歩を勝ち取っても、北朝鮮には政治犯収容所をはじめ、世界最悪とされる人権問題が存在する。経済問題とは違い、人権は交渉のカードになり得ない。この問題の優先順位を下げることは難しいだろう。そしてこの部分は金正恩政権が最も嫌がる指摘である。
とは言え、文大統領としては、南北関係が手綱が韓国の手を離れ、金正恩氏や米国のトランプ大統領の出方次第となっている現状をまず変えたいところだろう。
前出の討論会で文大統領は「朝鮮半島の問題だけは我々が主人であり、我々が主導するという明確な姿勢が必要だ」と強調している。故金大中、盧武鉉政権が掲げた「自主」の精神だ。
ここまで見た上で筆者は、「韓国側は北朝鮮に核と人権で譲歩うながすため、トランプ大統領ばりに『攻撃以外のすべてのカードをテーブルに乗せて』交渉を始めるのではないか」と予想する。1対1の等価値の取引にこだわらず、3対1の損な取引も辞さない可能性がある。
しかし一歩間違えば国際協調の輪を乱す行為にもなりかねない。このための根回しを今後、米国、中国など関連国とどう行っていくのかに注目したいところだ。

