第一野党・自由韓国党(旧セヌリ党)が文在寅政権の北朝鮮政策に「NO」を突き付けた。核を持つ北朝鮮に対抗するため、韓国に核兵器を置くことを党論とするというものだ。世論も核武装を支持する声が高く、北朝鮮の核の脅威が韓国社会に暗い影を投げかけている。(ソウル=徐台教)
「北の脅威に対処し、戦争を抑制するため」
16日午後、自由韓国党は国会で議員総会を開いた。
総会の冒頭で鄭宇澤(チョン・ウテク)院内代表は「現在、米国では予防戦争、致命的な軍事行動、金正恩政権の交替などが言及されている。極めつけは文在寅政府の安保無能に対し『コリア・パッシング』を超えて『文在寅パッシング』が現実となっている」と切り出した。
次いで「わが朝鮮半島では『非核化宣言』は北朝鮮により破棄されたと見る」と持論を述べた。
非核化宣言とは1991年に韓国の盧泰愚(ノ・テウ)大統領と北朝鮮の金日成(キム・イルソン)主席の間で交わされ「南北は核兵器の試験、製造、生産、受付、保有、貯蔵、配備、使用を行わない」としたものだ。韓国は未だこの宣言を有効としている。
だが、北朝鮮はすでに5度の核実験を行っている。鄭院内代表はこうした事情を前に「北朝鮮に騙され続けてきたにも関わらず、非核化の原則を守ることは事実上無意味になったと見る」と指摘した。
その上で「北朝鮮の核とミサイルの脅威に対処し、朝鮮半島での戦争抑制のための戦術核再配置を、党論として採択するのかしないのかを議論するときが来た」と述べたのだった。
戦術核とは何か?60年代には韓国に950余発が配置
戦術核(戦術核兵器)は主に500キロ以下の短距離射程で運用される核兵器のことを指す。ICBM(大陸間弾道ミサイル)やSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)など大型施設の攻撃を目的とした戦略核兵器に比べ核弾頭の威力は低いが、それでも一度に数万人を殺傷する威力を持つ上に、手動で発射できるものもあるなど取り回しがきくのが特徴だ。
韓国の月刊誌「国防と技術」2017年5月号にヤン・ユク韓国国防安保フォーラム主席研究委員が寄稿した「朝鮮半島に配置された戦術核爆弾」によると、米軍により韓国に戦術核兵器が初めて配置されたのは1957年のことだという。
その後、弾道ミサイル、ロケット、原子砲など様々な種類の戦術核が増え続け、1967年には950余発の核弾頭が韓国にあった。その後、1976年には540余発、1985年には150余発と減少し、1991年8月に米韓が戦術核の撤収に合意した際には100発程度が残っていたという。
なお、韓国からの戦術核の撤収は1991年12月に完了した。
議員総会で決議
自由韓国党の鄭容起(チョン・ヨンギ)院内主席報道官は議員総会終了後に報道陣に配布した書面で「自由韓国党は戦術核の配置を党論として採択し、推進することにした」と明かした。
これと関連し、筆者が17日午前、鄭主席報道官に電話で取材したところ「一人の議員だけが問題点を指摘するにとどまり、 圧倒的多数で可決された」とのことだった。
書面ではさらに、「文在寅大統領は『北朝鮮の核問題を平和的に解決しなければならない』としたが、平和は恵んでもらうものではなく『一戦不辞(一戦も辞さない)』という断乎さで『守り抜くもの』と」、文大統領を強く非難した。
文大統領は8月15日の光復節式典の演説で「政府はすべてを賭けて戦争だけは防ぐ。どんな紆余曲折を経ようとも北朝鮮の核問題は必ず平和的に解決しなければならない」と、韓国政府の「原則」を強調していた。
書面ではまた、「北朝鮮は事実上の核保有国であり、朝鮮半島非核化の原則を破ったのは北朝鮮だ」と非難の矛先を北側に向けた。
鄭主席報道官は筆者に対し「『朝鮮半島の非核化』はもはや有名無実になっており、核の抑止力を通じた平和以外に方法がない」との見解を重ねて示した。
核武装に傾く世論
気になったのが、この書面で言及された「ある世論調査で62.8%が韓国の核武装に賛成した」というくだりだ。調べてみると、該当する世論調査は日刊紙・文化日報が8月16日に発表したものだった。
調査結果をまとめた記事によると、韓国の核武装に「とても賛成」が25.1%、「賛成する方」が37.7%で合計62.8%となる。「とても反対」は12.7%、「反対する方」は22.1%だった。
別の世論調査でも核武装を支持する回答が目立つ。
今年6月から7月にかけ、日本の「言論NPO」と韓国のシンクタンク「東アジア研究院」が、日韓市民へ1000人(韓国は1003人)を対象に行った共同世論調査を引用したい。
「言論NPO:第5回日韓共同世論調査 日韓世論比較結果」ページリンク(日本語)
http://www.genron-npo.net/world/archives/6677.html
これによると韓国人回答者のうち67.2%が「韓国の核武装に賛成する」と答え、昨年の59.0%から大幅に伸びている(「反対」は26.7%、「分からない」は6.1%だった)。
なお、韓国日刊紙・朝鮮日報が昨年9月に行った世論調査では韓国の核武装に51.5%が賛成し、42.1%が反対だった。韓国の世論は北朝鮮に刺激され、核武装容認へと傾いていると見てよいだろう。
実現可能性は低いが世論の動向には注目
自由韓国党の発表に話を戻す。書面は「素手で戦うことはできない。『歯には歯』で『核には核』だ」とし、「戦術核の配置は北朝鮮の核に対する明白な抑止力として作用する。韓国の国民を金正恩政権の核の奴隷になるのを見過ごせない」としている。
このニュースに韓国メディアも反応した。
「スポーツ京郷」によると、同党のチョン・ウテク院内代表は議員総会終了後、記者団の「米国が戦術核の再配置に賛成しないはずだ」という指摘に対し「実現の可能性は見極める必要があるが、少なくとも『コリア・パッシング』といわれる今の時期に、戦術核の配置を言及することで、米側から別のサインが出るかもしれず、これに準ずる戦略を国際協力を通じ作れる可能性もある」と述べた。
今後の予定はどうするのか。前出の鄭容起主席報道官は「昨日の議員総会はあくまで今後の方向転換を決めたもので、具体的なロードマップは今後、政策委員会を通じ議論していく」と答えた。
現段階で、米韓の政策基調と異なる自由韓国党の「戦術核再配置」という主張が実現する可能性は、ほとんど無い。
ただ、見てきたように、世論は核武装を容認する向きに傾いているのが気になるところだ。第一野党による核武装論が今後、世論にどのような影響を与えるのか、そして平和を基調とする文政権の北朝鮮政策にどんな影響を与えるのか注視していく必要がある。

